
タイ観光・スポーツ省が発表した最新データによると、2026年の訪タイ外国人旅行者数は前年同期を下回る状況が続いています。2026年1月から5月までの累計訪問者数は約1,343万人となり、前年同期比で約2.8%の減少となりました。
新型コロナウイルスによる入国規制が撤廃されてから数年が経過し、多くの国で海外旅行需要が回復している中、タイは依然として世界有数の観光大国として高い人気を維持しています。しかし、期待されていたほどのペースで観光客数が伸びておらず、観光業界では今後の回復シナリオについて慎重な見方も広がっています。
タイ経済において観光産業は非常に重要な位置を占めており、GDPや雇用への影響も大きいため、観光客数の動向は国内外から注目されています。
1〜5月累計では中国・マレーシア・インドが上位
2026年1月から5月までの累計訪タイ外国人旅行者数を見ると、上位3か国は以下の通りとなっています。
| 順位 | 国・地域 | 訪問者数 |
|---|---|---|
| 1位 | 中国 | 約223万人 |
| 2位 | マレーシア | 約155万人 |
| 3位 | インド | 約94万人 |
中国は依然として最大の訪タイ市場となっていますが、コロナ前の年間1,000万人超という水準には遠く及んでいません。
以前のタイ観光市場は中国人旅行者への依存度が非常に高く、中国市場の動向がタイ観光業全体を左右すると言われていました。しかし近年は、中国国内の景気減速や旅行先の多様化、安全性への懸念などもあり、回復ペースが当初予想よりも鈍化しています。
そのためタイ政府や観光業界では、中国市場の回復を期待しつつも、インドや中東、欧州、ASEAN諸国などへの市場分散を進める必要性が高まっています。
中国市場の回復がタイ観光業のカギ
タイ観光業界にとって、中国人旅行者の動向は依然として最大の注目ポイントです。
コロナ前の2019年には約1,100万人の中国人旅行者がタイを訪れていましたが、現在はその水準には達していません。
背景としては、以下の点などが挙げられています。
- 中国国内景気の減速
- 消費者マインドの低下
- 日本や韓国など他国との競争激化
- SNS上で拡散された治安面への懸念
- 中国政府の旅行政策の変化
特に2025年から2026年にかけて、中国人観光客を狙った犯罪事件や詐欺被害に関する報道がSNSで拡散されたことで、一部の旅行者がタイ旅行を敬遠する動きも指摘されています。
タイ政府は観光警察の強化や安全対策のアピールを進めていますが、中国市場の本格回復には時間がかかるとの見方もあります。
日本人旅行者数は比較的安定して推移
日本市場については、大幅な減少は見られず比較的安定した推移となっています。
2026年の日本人訪タイ旅行者数は、以下の通りとなっており、国別ランキングでは7位前後を維持しています。
- 1月:84,784人
- 2月:116,776人
- 3月:106,020人
日本からタイへの旅行需要は一定の水準を保っていますが、円安や航空券価格の上昇などが影響し、コロナ前と比較すると回復は限定的です。
以前は気軽に楽しめたタイ旅行も、近年は航空運賃やホテル料金の上昇によって旅行費用が大幅に増加しています。そのため、短期間で何度も訪れるリピーター層よりも、年に1回程度の旅行へと変化しているケースも見られます。
一方で、バンコク、チェンマイ、プーケットなどは引き続き日本人から高い人気を集めており、今後も安定した市場として期待されています。
タイ政府は「量より質」の観光戦略へ転換
近年のタイ政府は、単純に観光客数を増やすだけではなく、1人当たりの消費額を高める戦略へシフトしています。
タイ国政府観光庁(TAT)が掲げるキーワードは、「Value-Driven Growth(価値重視型成長)」です。
従来は年間4,000万人以上の観光客誘致を目標としていましたが、現在は観光収入や経済効果を重視する方向へ転換しています。
具体的には、以下のようなプロモーションを強化しています。
- ウェルネスツーリズム
- 医療ツーリズム
- ゴルフ旅行
- ラグジュアリー旅行
- MICE(国際会議・展示会)
- デジタルノマド
- 長期滞在者向け市場
観光客数が多少減少しても、高単価な旅行者を増やすことで観光収入を維持・拡大する狙いがあります。
インド市場への期待も高まる
近年、タイ観光業界が特に注目しているのがインド市場です。
インドは人口世界一となり、中間所得層の増加によって海外旅行需要が急速に拡大しています。
タイは、ビザ取得のしやすさやフライトの多さ、比較的近い距離、充実した観光資源といった理由から、インド人旅行者に人気の旅行先となっています。
また、インドでは結婚式を海外で開催する「デスティネーションウェディング」需要も拡大しており、プーケットやサムイ島などは人気開催地として知られています。
今後は中国市場だけでなく、インド市場の成長がタイ観光業を支える重要な柱になると考えられています。
ビザ制度の見直しも観光需要に影響か
観光客数減少の要因として注目されているのが、タイ政府によるビザ制度の見直しです。
タイ政府は不法就労や違法ビジネス対策の一環として、これまで60日間認められていたビザ免除滞在期間を30日へ短縮する方針を発表しています。
短期旅行者への影響は限定的と見られていますが、以下のような層には一定の影響が出る可能性があります。
- 長期滞在者
- ノマドワーカー
- リピーター旅行者
- ウィンターシーズン滞在者
さらに、空港利用料の引き上げや航空券価格の高止まり、世界的なインフレ、為替変動なども旅行需要を左右する要因となっています。
観光業界からは「不法就労対策は必要だが、観光競争力を損なわないバランスが重要」との声も聞かれています。
2026年後半のタイ観光市場はどうなる?
2026年後半については、観光市場の回復が続くとの期待がある一方で、不透明要素も少なくありません。
プラス要因としては、以下の点が挙げられます。
- 中国市場のさらなる回復
- インド市場の成長
- 欧州からの冬季旅行需要
- 新規航空路線の拡大
一方で、世界経済の減速懸念や地政学リスク、渡航コストの上昇、ビザ制度変更などは引き続きリスク要因となっています。
タイ政府は観光客数だけではなく観光収入の増加を重視しているため、今後は「何人来たか」よりも「どれだけ消費してもらえたか」が重要な指標になっていくでしょう。
まとめ
2026年5月時点のタイ観光市場は、依然として多くの外国人旅行者を集めているものの、前年を下回る状況が続いています。1月から5月までの累計訪タイ外国人旅行者数は約1,343万人となり、前年同期比で約2.8%減少しました。
中国市場は引き続き最大の訪タイ市場ですが、回復ペースは想定より鈍く、タイ政府は中国依存から脱却するため市場の多様化を進めています。また、インドや中東、欧州など新たな成長市場への期待も高まっています。
今後のタイ観光業は、「観光客数の拡大」から「観光収入の最大化」へと軸足を移しつつあります。ビザ制度の見直しや渡航コスト上昇といった課題もありますが、ウェルネスや医療観光、長期滞在市場など高付加価値分野の成長によって、新たな観光立国モデルを目指す動きが加速していくでしょう。
2026年後半の観光動向は、タイ経済全体を占う重要な指標として引き続き注目されそうです。


